コロナの影響で、2020年以降の新入社員研修をオンラインで実施することを余儀なくされた企業も多くありました。
新入社員研修を担当された人事部の方々にインタビューをしてみると、オンライン化したことでのメリットとして「一人ひとりの表情が見えるようになった」「ブレイクアウトルームなどで集中しやすい環境をつくることができた」「交通費や宿泊費等の経費が削減できた」など挙げられる一方で、デメリットとして「新入社員同士がより多くの仲間と話す機会が減って関係性が希薄のまま終わった」「その結果、配属後に積極的に集まって情報交換をするといった活動も見られなくなった」といった意見が挙げられました。
誰にとっても人生で一度しかない新入社員研修。
本来そこで出来たはずの同期との”繋がり”を持てなかったことは本人たちにとっても、会社にとっても、とても悲しいことです。
Withコロナ時代として、生活様式が以前の生活に戻りつつある現在。
「今年こそは対面形式で!」という想いで、新入社員研修を企画されている研修担当の方も多いことと思います。
そこで、今回は「新入社員のチームビルディング」をテーマにその効果と具体的なアプローチについて解説をしてみました。
1.チームビルディングとは?
そもそもチームビルディングとは何か?
一言で言うと、チームの関係性を高め、生産性や創造力を向上させることです。
つまり、チームビルディングとはただ仲良くなることとは違い、チームとして機能させることを目指すのであれば、必要なプロセスと言えるでしょう。
詳しくはこちらの記事で解説をしていますのでご覧下さい。
トレーニングとは違う?!チームビルディングが世界中で行われている理由
飲み会や懇親会で仲良くなること自体は決して悪いことではなく、むしろお互いの信頼関係を築く上でとても重要なことです。ただ、それだけだと集まっては愚痴を言い合ってしまう関係性になってしまったり、その築き上げた信頼関係を壊さないようにと厳しく言えなくなってしまうような「表面的に優しい関係性」で終わったりしていまうケースもあります。
チームビルディングにおいては、「チームとして高い目標を設定し、達成するために切磋琢磨しあう関係性を築くこと」に主眼を置き、ビジネスマインドの高いチームへと変化していくことを目指します。
2.新入社員に有効な”チームビルディング”とは?
本来”チームビルディング”というと、同じチーム(会社で言うと部署や職場)に所属するメンバー同士で行うことが一般的ですが、異なるチームに配属される新入社員にもチームビルディングはとても有効です。
厚生労働省が発表した「令和3年雇用動向調査結果の概況」によると、”転職入職者が前職を辞めた理由別割合”の(新入社員を含むであろう)20歳から24歳が挙げた理由として、1位は「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」で14.2%、2位は「職場の人間関係が良くなかった」で12.8%となっています(その他の個人的理由を除く)。
「職場の人間関係が良くなかった」の数値を他の世代と比較してみると、ひとつ上の世代となる25歳から29歳は、6.3%、その上の世代の30歳から34歳は5.3%と半分以下に減少していっていることが分かります。
一方で、25歳から29歳は「仕事の内容に興味が持てなかった」が10.1%(20歳から24歳は3.6%)、「能力・個性・資格が生かせなかった」が4.7%(20歳から24歳は3.7%)であり、3年以上を過ぎると職種の適正を理由に離職入職している人が増えていることが分かります。
このことから、入社して2年目までは、「人間関係や労働環境」に不満を抱える傾向にあり、入社3年目以降は「職種の適性」に不満を持つ傾向が高まると言えます。
これらをアメリカの臨床心理学者であるフレデリック・ハーズバーグの「二要因理論」で提唱されている「衛生要因・動機付け要因」の観点で見てみると面白い傾向が伺えます。
※ハーズバーグの「二要因理論」とは・・・人のモチベーションの要因には、「衛生要因」と「動機付け要因」の二つに分けられる。衛生要因=「不満につながる要因」であり、給与や労働時間といった労働環境、職場の人間関係などの対人関係が挙げられる。動機付け要因=「満足につながる要因」であり、自己実現や能力発揮といった達成感、大きな仕事を任せられる責任範囲の拡大などが挙げられる。
20歳から24歳までは、労働条件や対人関係といった衛生要因の影響を受けやすい一方で、25歳から29歳になると、動機付け要因が理由で離職している人が多くなるといったことが分かります。
つまり、入社して間もない新入社員は、他の世代と比較しても職場環境の不満が溜まりやすく、それを理由に離職をする可能性が高いと言えます。
だからこそ、ガス抜きをし合える=お互いの悩みを共有し合える関係性を同期で作っておくことは、とても大切なことなのです。
しかし、ただ会社や職場の愚痴を言い合っているだけの関係性をつくるだけでは、建設的な関係性とは言えません。
ガス抜きをし合いながらも、「この会社でもっと頑張っていこう!」「同期が頑張っているんだから私ももっと頑張らないと!」「同期のみならず先輩を追い抜くぐらいのスキルを身につけよう!」といったお互いを鼓舞しあえる関係性を作ってこそ、新入社員のチームビルディングは成功と言えるのではないでしょうか?
「悩みや不満・不安を共有しながらも建設的に進むことができる関係性」をつくるためのステップをまとめました。
STEP1:気軽に話しかけることができる信頼関係を築く
STEP2:お互いの価値観や才能を認め合う関係性を築く
STEP3:共通のゴールを設定する
STEP4:一人ひとりのゴールを理解し合う
STEP5:承認と期待を伝え合う
3.チームビルディングの具体的なアプローチ
この章では、それぞれのステップの解説と具体的なアプローチについて解説していきます。
STEP1:気軽に話しかけることができる信頼関係を築く
まずは何事も話しかけることができる信頼関係を築くことからスタートとなります。お互いに言いたいことを言い合えるようになることを目標とします。
具体的なアプローチとしては、既に実施されている企業も多いと思いますが、飲み会や懇親会をしたり、研修中にアイスブレイクを取り入れながらより多くの同期と話す機会を増やすことです。
STEP2:お互いの価値観や才能を認め合う関係性を築く
新入社員が対人関係の壁にぶつかる理由のひとつとして、「これまで付き合ってこなかったタイプの人たちとの出会い」があります。学生時代は気の合う仲間と付き合ってこれば良かったものの、社会に出ると今まで絶対に付き合ってこなかったであろう人たちと一緒に働くことになります。
だからこそ、多様性を認め合うといったマインドを形成することがその壁を乗り越え、むしろその違いを活かし合うために重要です。
具体的なアプローチとしては、パーソナルヒストリーといったお互いの育ってきた背景とその人が大切にしている考え・価値観を理解しあうことや、ストレングスファインダーといったお互いの才能を理解するためのツールを使うといったことが有効です。
パーソナルヒストリーの進め方についてはこちらの記事で解説をしております。
【手法5選】今日から使えるチームビルディングアクティビティの手法を紹介!
STEP3:共通のゴールを設定する
ここで言う共通のゴールというのは、大きく分けて2つの種類があります。
1つは、「研修終了時(または1年後)の自分たちの理想の姿」です。
研修というと「何か教えてくれる」といった受け身の姿勢になりがちです。研修に主体的に参加するためにも、なぜこれを学ぶ必要があるのか?それが自分たちのゴールにどう繋がるかを意識することが鍵となります。
2つめは、「自分たちのルール」となるものです。会社でいう行動規範に近いものがこの「自分たちのルール」です。通常、ゴールと行動規範は異なるものですが、ここでは共通のゴールとして扱っています。
「研修終了時の理想の姿はどういうもので、そのためにどういう行動が取れるようになっているのか」を具体的に示したものが共通のゴールです。
これらの共通のゴールを設定することによって、出来ていない仲間をサポートしたり、時には檄を飛ばすことができる関係性を作ることができます。
具体的なアプローチとしては、話し合いによって「研修終了時(または1年後)の自分たちの理想の姿」と「自分たちのルール」を設定してもらい、毎日それがどこまで出来たのか?を振り返るといった内容です。
STEP4:一人ひとりのゴールを理解しあう
これまでも述べてきたように、新入社員のチームビルディングというと仲良くなることをイメージしがちですが、それだけを目的としたチームビルディングでは、関係性の質の向上は充分とは言えないでしょう。
あくまでも、仲間でもあり、良きライバルでもある同期としての関係性を築くこと、つまり切磋琢磨し、時には檄を飛ばし、時には奨励しあうといった関係になるには、お互いが目指すものを理解しあうことはとても有効です。
研修を通じて、自分に求められるもの、また自分が目指したいものを明確にし、それを周囲が理解することで悩みを共有しながらも、「〇〇さんが目指していたゴールって・・・だったよね!一緒に実現しようよ!」といった感じで叱咤しあうことができるようになります。
お互いを高め合う関係性を作るためにも、「一人ひとりのゴールを理解しあうこと」はとても重要になります。
STEP5:承認と期待を伝え合う
一般的に「人は自分の保有している能力の1%も発揮できていない」と言われています。新入社員であれば、なおさら”どう発揮すれば良いのか?”、”そもそも自分の強みって何?”という気持ちも強いのではないでしょうか?
自分を正しく知り、可能性を広げるためには、どうすれば良いのでしょうか?
有名な自己分析をする上でとても有名な「ジョハリの窓」というものがあります。
サンフランシスコ州立大学の心理学者ジョセフ・ルフト (Joseph Luft) とハリ・インガム (Harry Ingham) が発表した「対人関係における気づきのグラフモデル」で、人には4つの窓が存在するとされています。
自分のことを正しく理解するためには、この4つの窓を開放していくことが重要になります。
4つの窓を開放していくためには、「自己開示をすること」と他の人からの「期待と承認を伝える」ことで自分のことをより深く理解することができます。
新入社員一人ひとりが自ら立てた目標に向かって、自信を持って突き進むためにも、同期からの期待や承認(=その人の強みを伝えること)をすることで、より質の高い関係性を築くことができるのです。
4.まとめ
いかがでしたでしょうか?
新入社員の研修というと「社会人の基本」や「ビジネススキル」といった学ぶべきものが多いため、座学型の研修になりがちですが、実は新入社員だからこそ、必要なチームビルディングが存在するのです。
コロナの影響で新しいワークスタイルが定着してきた現在こそ、新しい新入社員研修の在り方を考えてみてはいかがでしょうか?
チームの結束力を高めるチームビルディングアクティビティはこちら
この記事を書いた人
納土 哲也
岐阜県飛騨高山市生まれ。
人財育成・組織開発のコンサルタントとして、100社以上の企業の人財育成・教育体系の構築を手がける。2014年にチームビルディング事業の事業責任者として立ち上げに従事。
2018年に本場のチームビルディングを学ぶため、オーストラリアへ単身留学。現地のチームビルディング企業で、ゲーミフィケーションをベースとしたチームビルディングメソッドを学び、2019年に帰国。2021年に株式会社Teamieを創業。